12月のひとこと
●ちゃんと、ちゃんと
行く場所行く場所で、いつも「私はここにいていいのかな?」「私ってみんなからどう思われているのかな?」と認識する「癖」があるクライアントのKさん。ちゃんとしていないと、みんなが自分から離れていってしまう気がするとのこと。
こう思う理由の1つとして考えられるのが幼い頃の経験です。例えば、幼い頃に大人からいきなり「あなたは向こうに行っていなさい!」と言われたとします。幼いこどもの脳では大人の事情なんて分かりません。「あなたはここにはいてはいけない存在なのよ!」と言われたと誤認識してしまうことがあります。同時に自尊心がとても傷つき、消化できない不安が残ります。
今はもう立派な大人のKさん。「他人はどうあれ、自分だけはちゃんとしていないとダメなんです!じゃないとそこにいちゃダメなんです。ちゃんとしていない自分は許せないんです」とおっしゃいます。
そこでKさんにご自身が持っている認識癖に気づき、そう思ってしまう理由を理解して頂いた上で、『今現在の自分がここに存在することをちゃんと許してあげること、ちゃんと認めてあげること』を次回お会いする迄意識してやってみてほしいとお伝えしたところ、笑いながら「宿題ならちゃんとやります♪」とおっしゃってくださいました。ネガティブな思い癖にポジティブな思い癖を上乗せしていく方法です☆
●ミネソタ実験(飢餓実験)
第二次世界大戦中(1944年から1945年の1年間)にミネソタ大学である実験が行われました。この実験に参加すると、兵役が免除されるため、応募者が多数集まりました。その中で身体面、精神面が高水準に健康である36人の男子(内4人はリタイア)が被験者に選ばれました。
この実験の目的は、兵士がどのくらいの栄養状態で戦えるか、飢餓飢餓が人間の心身にどのような影響を与えるかを調べることであり、概要は以下の通りでした。
1)開始~3ヶ月間 通常の食事を摂る
2)次の3ヶ月間 摂取カロリーを半分にして生活を送る
3)次の3ヶ月間 ゆっくり通常の食事に戻していく
4)次の3ヶ月間 食事制限を解除して再び通常の食事に戻す
この実験の結果、被験者は平均25%の体重の減少、40%の基礎代謝の低下、それに伴う徐脈、低体温など飢餓反応として当然の変化が見られました。想定外だったのは、実験修了後も続いた被験者の精神的変化(後遺症)でした。彼らの性格には明らかな変化が見られ、食事に対する関心が非常に高まりました。1日中食べ物のことばかり考え、夢や空想、会話の内容も食事のことばかりになる。食べ物や食事以外のことには、極端に集中力がなくなる。料理や食べることにあまり関心がなかった人も、料理本やレシピ本を読みあさるようになりました。中には食事とは関係のない不用品やがらくたなどを買いだめしたり、なぜこんなものを買ったのだろうと悩む人もいました。万引きをする人もいました。実験後に料理人に転職した人もいました。強い焦燥感や、不安、うつ、引きこもり、異性への興味喪失、気分の激しいアップダウンを繰り返すなど、精神的に極めて不安定な人もいました。一日中爪を噛んでいる人、喫煙者、喫煙回数の増加、イライラしたり、切れやすくなったりでケンカが絶えなくなる一方で、無気力、無感動になることも分かりました。希死念慮や自傷行為をする人、精神病状態となって入院する者も出てきました。
2)の摂取カロリーを半分にして生活を送るという課程に入ると、時間をかけて食事をするようになったり、香辛料の量が極端に増えたり、奇妙な調合(材料を全部混ぜるなど)や味付けをするようになった人が出てきました。また、他人が食べているのをジッと見たり、食事の匂いをかいで喜んでいる人もいました。また、コーヒー、紅茶、ガムなどの嗜好品の消費が劇的に増加しました。食事の一部を持ち帰り、自分の部屋で隠れ食いをしたり、盗食したり、残飯の生ゴミをあさろうとする人も現れました。
3)と4)の食習慣の変化・食事制限解除後はほとんどの人たちが過食になりました。大量の食事をしても常に空腹を訴えました。1日で1万キロカロリーも摂取してしまう人、過食嘔吐を延々と繰り返す人や、食べ過ぎで入院する人もいました。実験終了後もなかなか過食は治まらず、1人を除き、過食衝動がなくなったのは8ヶ月後でした。
このミネソタの実験以降、類似の研究は行われていません。それくらいこの実験が非人道的な行為だったからです。でもこの実験で、長期の飢餓状態が心身に与える影響がどれほど過酷なものかが分かりました。若くて健康な男性でさえ、たった数ヶ月から1年の食事制限をしたらこんなにも心身にダメージを負ってしまうのです。その代償はあまりにも大きいです。これが女性だったら間違いなく生理も止まってしまうでしょう。
ダイエットをしたらこんな恐ろしいことになってしまうんだよ!と警告するためにこの実験について書いたのではありません。摂食障害に悩み苦しんでいる人の気持ちや言動は、ふつうの人にはなかなか理解してもらえません。でもこのミネソタの実験の結果を知れば、ふつうの人が理解に苦しむ、極端なダイエット(拒食)経験のある人たちが起こす様々な言動に対して理解が深まり、自力ではなかなか解決できない彼女たちの辛さを少しでも分かってもらえるのではないかと思ったからです。
実験結果からも分かるように、被験者1人を除く残りの全員が「食事制限が解除されてから8ヶ月後には過食衝動が治まった」という事実はとても興味深いです。過食に悩む人は今すぐ過食を止めたい・痩せたいという思いが強く、再び食事制限をかけてしまうことが多いのですがそうするとその反動でまた過食してしまうし、この実験結果同様、ますます心身の状態がおかしくなっていってしまいます。
過食したら次の食事は抜く!などの不規則な食生活を改めて、過食してしまっても規則正しいリズムで主食を含む食生活を続けていくと8ヶ月~1年で必ず過食衝動は治まっていきます。もちろんこの間のメンタルサポート&ケアーも欠かせません。「回復には、摂食障害歴と同じくらい長い時間がかかる」と言う医療者がいますが、これは全く持って根拠のない話です。信じてはいけません。
確かにミネソタの実験は非人道的な実験ではありましたが、この実験の結果が、摂食障害に悩む方へ励みや理解につながればいいなと思います。
2015年12月1日
摂食障害カウンセリング あや相談室主宰
摂食障害カウンセラー 長谷川あや