11月のひとこと
●失感情症
失感情症は病名ではなく性格の特徴を表す症状名です。心身症、依存症、うつ病になりやすい性格傾向の1つとして考えられています。失感情症は「感情を失っている」という意味ではありません。「自分の感情に気づくのが苦手」「自分の感情を上手に表現するのが苦手」な傾向があるということです。失感情症の特長は、感情を認識することが不得意であるため、「想像力や共感力、自己観察力が乏しい」ことです。
失感情症の傾向が強いと、ストレスを受けてもストレスを感じません。そのため、ストレスを受け続けながらも平静です。「なんか変かも?」と思うことはあっても、それがストレスのせいだとは気づけません。周りからは「タフな人」「我慢強い」と思われがちです。しかし、ストレスは確実に溜まっていきます。やがて体が悲鳴を上げ、身体症状によるSOS信号を発します。頭痛や胃潰瘍などの心身症です。心身症のようなSOS信号を出せない人は、薬物やアルコール、過食・拒食などによってストレスを発散するようになります。
失感情症の人の多くが、自分にその傾向があることに全く気づいていません。気づいていないので、体や心の必死のSOS信号による訴えも無視してしまいます。不調の原因が分からないので、「なんて意志が弱いんだろう」「何故、過食するの!?」と責めたり、更に頑張ろうとしてしまいます。体はますますストレスや疲れを募らせ、SOS信号を発し続けざるを得なくなります。
大切なのは、自分の性格傾向に「気づくこと」です。「自分にはストレスは何もない」「意志が弱いだけ」「もっと頑張りたいのに頑張れない。情けない!」と思っている人ほど、自分の気持ちを無視していることに気づいてほしいです。
*他人の気持ちがよく分からない
*想像力が乏しい、考えが浅はか、反省が足りないなどと言われる
*自分の気持ちを人にうまく伝えることができない=気持ちを問われてもうまく答えられない=問われるのが嫌い
*表面的・事務的・形式張ったしゃべり方をする
上記に思い当たる節がある場合は、失感情症の可能性があります。
カウンセリングにいらしてくださった方に、私から「あなたは失感情症ですね!」と言うことはありません。もし私がそう言われたらなんかいやだからです^^; 人はみな、いろんな性格傾向を持っています。失感情症もその1つですし、それは1つの個性であり、長所にも短所にもなり得ます。ただ、自分の性格の特徴に気づいていないことで、理由も分からず問題行為に悩んでいるとしたら、それはとても辛いし不安だと思います。
失感情症に悩むクライアントには日記を書くことを提案することがあります。みなさん、「今日は○○をしました」などの事実の説明は難なくできますが、その時どう思ったか、どうしたかったかなどの感情表現が苦手なので、そちらの方に重点を置いて書いてもらいます。苦手故に非常に難しいと思います。逆に言えば、自分の気持ちをすらすら書ける場合は失感情症ではありません。次のカウンセリングで日記を見せていただき、その時々の出来事と感情について話ながら、本人が気づいていない疲れやストレス、それらの原因に焦点を当てていきます。
「他人の意見を素直に聞いてみる」という宿題を出すこともあります。ストレスや疲れを認識することが苦手な人は、他者から「頑張りすぎだよ」「少し休んだ方がいいよ」などと言われても聴く耳を持ちません。自分にはその自覚がないので「はぁ?」と思うこともよくあるでしょう。でも、周りの人が指摘してくれたことを端から否定せず「そうかなぁ?」と疑いながらでもいいので聞き入れるようにしてみてほしいのです。身近にいる人たち、例えば家族や友達、同僚の意見ほどスルーしがちです。人から「○○過ぎじゃない?」と心配されたら、「どうしてそう思うの?教えて」を聞いてみてもいいかもしれません。1つ事例を紹介いたします。
Aさんは、2つの仕事と趣味で忙しい毎日を過ごしています。他にもしたいことがたくさんあるのに時間が足りません。忙しいのに毎晩必ず過食嘔吐をしてしまい寝不足で辛い・・・と悩みカウンセリングにいらっしゃいました。
彼女から頂いたメールの中にもカウンセリングの対話にも、ご自分の感情を表現する言葉が一切出てきません。あった出来事についての説明はすらすらできるのですが、その時どう思ったかと問うと途端に黙ってしまいます。そして「よく分かりません」を繰り返します。「何故そんなことを聞くんですか?」と不快そうに言われたこともあります。
Aさんはどこに行っても「頑張り屋さん」「いつも元気」と言われますが、それはふつうのことだと思っていました。実はAさんは周りの人から「そんなに頑張らないで」「ちょっと休んだ方がいいよ」とも言われていました。彼女はそのたびに「全然疲れていません!」と本気で言い返していました。
私は、今度誰かにそういう言葉を言われたら、「その言葉に耳を傾けるように」と彼女にお願いしました。そしてこれを次回のカウンセリングまでの宿題にしました。彼女はそんなことでいいんですか?と言いながら、ちゃんとアンテナは張って下さいました。
次のカウンセリングでAさんは、こうおっしゃいました。
『びっくりしました!私ってみんなから見るとすごい頑張り屋らしいんです。みんなはもっと休んでいるし、あなたも休んだ方がいいって言うんです。いつどこで休んでいるの?とも言われました。いつもならうるさいな~って思うだけでしたが、宿題だったので、「そうかもしれない」と言い返してみたら、みんなが「そうだよ~」と笑うんです。みんなと話していたら「みんなが見てそう思うならそうなんだろうな~」と思うようになり、その言葉を信じて意識して休むようにしてみました。今までは考えたこともなかった昼寝をしたり、ゆっくりお茶してから家に帰ったり、お風呂にゆっくり入ってみたり。今も疲れとかストレスとかあんまりよく分からないのですが、分からなくてもちょこちょこと息を抜いています。最近、過食する回数が減ったんです。毎晩していたのになんで?・・すごく不思議ですがそういうことだったんですね。疲れの感覚に鈍いからこそ意識して休んであげないといけなかったんですね』
失感情症とまでいかずとも、摂食障害に悩む方に自分の疲れやストレスになかなか気づけない人が多いのは事実です。自分の性格にはどんな傾向があるのか。まずはそこに気づくことがものすごーく大切です。変わらない性質と変われる性格を分けて考え、変わらない性質を変われる性格で補っていくことができるようになれば、間違いなく生きやすくなるし、体も心も安心します。疲れやストレスも軽減します。
話すことは気づくこと。気づくことは変わること。気づきのきっかけとしてカウンセリングをご利用いただければと思います♪皆さまと一緒にいろんな気づきを得られるのを愉しみにしております。
2015年11月2日
摂食障害専門カウンセリング あや相談室主宰
摂食障害カウンセラー 長谷川あや