私が私らしく過ごせた1年間(1)
短大を卒業した年の夏、私は伊豆の保養所の厨房で働き始めた。
以前何度か客として訪れていたそこは懐かしさと心地良さでいっぱいだった。ここの職員は年輩者ばかり。若い人は私と、農作物を作っている隆くんだけだった。
ここの人たちは誰も私のことを怒らない。そして私が当然だと思ってやっていることを大いに誉めてくれた。
私はみんなをよく笑わせた。ちょっとした冗談なのにみんな
すごく笑ってくれた。楽しくて楽しくて仕方なかった。
ここは自然食がウリの保養所だったので、食事はヘルシーなものが多かった。とは言え、最初は全部食べることに抵抗があった。
でも隆くんが作った野菜や鶏の卵、みんなで心を込めて作った料理を残すほどの勇気もなく、ご飯だけを少な目によそい、後は全部食べた。
昼間はとても楽しかったが、夜はとても寂しかった。
テレビもない。話し相手もいない。することもない。
仕事が終わると決まって甘いものが食べたくなった。でも深夜営業しているお店はここから徒歩一時間もかかるコンビニしかない。仕方なく私は毎晩ここに通った。
コンビニには美味しそうな菓子パンがいっぱいあって心がウキウキした。というわけでほぼ毎晩過食した。
当然、パンパンにむくれている自分の顔を見て落ち込むことも多かったた。でもいくら太ろうがむくもうが、職員のおばちゃんやおじちゃんはそれに全く気づかない。
下を向いて厨房に入ってきても「最近、あやちゃん痩せたよね~」なんて言われる。そしていつも通りの会話。いつしか自然と笑顔になっていた。
過食してもしなくても、太っても痩せても、ここは私が唯一私らしくいられる場所だった。
いつしか「過食してもしなくても、別にどっちだっていいやっ!」と思うようになっていた。そのころには、1時間もかけて食べ物を調達しにいくのもいい加減面倒になってきていた。
徐々に過食の回数は減っていった。同時にご飯をみんなと同じようによそうようになった。
ふと気がつくと、私は過食を過食とは思わなくなっていた。