★最高の誕生日★
その年の冬はとても寒かった。朝早くに起きるのはとても辛かった。とても忙しくて昼間は自分の部屋でぐったりした。
そんなある日の昼休み、いつものように自分の部屋で横になっていたら、職員の人が入ってきた。彼は深刻そうな顔をして
「あやちゃんに渡したいものがあるんだ。ちょっと目をつぶってくれる?」と言った。
??と思いながら私は素直に目をつぶった。しばらくすると彼は「もういいよ」と言った。目を開けたらそこにはなんときみちゃんが立っていた。私は意味が全然分からなかった。だってきみちゃんは夏が終わると同時に東京に帰ってしまったから。
「え~?なんできみがいるの??」
きみちゃんは私に抱きついて「お誕生日おめでと~!!!あやを驚かせたくて、バイクを飛ばしてきちゃったよ。はい、これプレゼント♪」と小さな箱をくれた。
すっかり忘れていた。今日は私の誕生日じゃん!!
私に抱きついたきみちゃんの体は氷のように冷たかった。
きみちゃんは全身をブルブルと震わせながら「す、すごい寒かったよ~~!!ほ、ほら見て。こんなに着込んできたのに手ぇ、こんなに振るえているよぉぉ(笑)」そして時計を見て「あー、ごめん!もうちょっとゆっくり話したかったけど、もう帰らないと駄目だぁ。夜仕事が入っているんだ。今からでも間に合うかどうか分からないんだけどね(笑)」と言ってすぐに帰ってしまった。
たった数分の出来事だった。
横で二人のやりとりを見ていた職員の人が「あやちゃんは、いい友達がいて幸せだな」と言った。
きみちゃんからもらった箱を開けると、12月の誕生石・トルコ石が揺れるピアスが入っていた。涙がぽろぽろこぼれ落ちた。
私はずっと「親友」に憧れていた。自分に自信がない私には、どうしてもそういう子の存在が必要だった。でも嫌われたくないから、いつも一緒にいてほしいから相手を束縛してしまう。その子が他の子と仲良くしていると激しく嫉妬してしまう。
だから親友どころか、友達すらなかなかつくることができなかった。
私は、絶対に裏切らない、私だけを見てくれる人をますます欲しがった。友達ができるとすぐに「私たち、親友だよね?」と聞いた。焦りや不安を見破られないよう、その子に嫌われないよう、一生懸命だった。
でも、きみちゃんには一度もそんなことを聞いたことはなかった。束縛したこともなかった。したいとも思わなかった。いつも自然に話していたし、接していた。
別にずっと一緒にいなくても、ずっと会えなくても平気だった。でもいつも心の中では「きみちゃん、元気かな?」って思っていた。彼女に何かあった時は「どこにいてもすぐにそこへ飛んでいくぞ!」という気持ちがあった。
そっか、これが親友か・・・
翌日きみちゃんに電話した。
「昨日は本当にありがとう。今までの誕生日で一番一番嬉しかった。私、感動して泣いちゃった」
「ほんと?良かった~。ずっと前から楽しみにしていたんだ。
あやを驚かせようと思ってね。でもめちゃくちゃ寒かったよ。
ほんとに死ぬかと思ったもん。でもあやの元気な顔みたら、私も頑張ろう!って思えたよ。
もしあやが「来て!」って言ったら、いつでも飛んで行くからね!あ・・・できれば寒くない時にしてほしいけどね(笑)」
顔がポッと赤くなった。好きな人から告白された気分だった(笑)。
耳元で小さく揺れるピアスの音が心地よかった。年末年始も休まずに元気に働き、私は生まれて初めて、家族のいない場所で新年を迎えた。20歳の冬のことでした。